【第5回】
Parsiの商人
2009年01月15日
2009年01月15日
インドのムンバイ(ボンベイ)の「同時テロ」(2008年11月27日)で、あの瀟洒で豪華な老舗「タージ・マハール・ホテル」の火煙の映像を見て、衝撃を受けた。
同ホテルはインド最大のタタ財閥に属する。そのタタ・グループはパルシー族(Parsi=ペルシャ=イランに他ならない)と呼ばれるゾロアスター(拝火)教徒である。
ゾロアスター教は、ニーチェによる「ツァラトゥストラはかく語りき」(Also sprach Zarathustra)であり、これに感化を受けたリヒャルト・シュトラウスの同名交響詩の導入部がスタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」で使われて、知らぬ者はいない。また自動車のマツダは、創業者(松田氏)がゾロアスター教の主神アフラー・マズダー(Mazda)を冠したと聞く。
駐在先テヘランで結婚式を挙げ、新婚旅行はペレスポリス、シラズ、イスファハンで、他方、インドのタタ財閥とも取引をした筆者が惹かれる壮大なロマンがここにある。
イスラム教徒の迫害を避けたパルシー教徒は1100年頃に、イラン(ヤズド地方)から船に乗り、インドの西海岸グジャラート州にたどり着いた。同地のマハラジャは「あなた方のための場所はない」と言う。パルシー代表はコップにいっぱいのミルクを希望する。ミルクが溢れるほどのコップに、代表はスプーン一杯の砂糖を溶かしこんで見せる。コップからは一滴のミルクもこぼすことはなかった。そして、「このように私達がこの地に溶けこんで、地域を甘くすることが出来ます」という代表の言葉に感銘したマハラジャは定住を許す。まさに営業マンの鑑(かがみ)だ。
そもそも12億の人口のインドで、20万人足らずのパルシー族が最大の財閥を形成できる土壌。インドという国は多民族、多宗教を包み込む共生の国だということに感銘を覚える。
奈良県飛鳥地方には、酒船石(さかふねいし)はじめ猿石、益田岩船(ますだのいわふね)といった謎の石造物がある。これを松本清張は飛鳥時代に渡来したペルシア人が遺したものと考え『火の路』=拝火教文化の回路と説いた(「ペルセポリスから飛鳥へ」日本放送協会、「火の路 」文春文庫)。絹の路(Silk Roadシルクロード)と並行して、Flat化するビジネス文化の原点である。
言葉という点からしても、英語化して、日本に入っている言葉があり、興味深い。Pajamas、ペルシャ語では、パは足でジャマは布で、つまり足を被う布という意味。Caravanはペルシャ語ではカールヴァーンと発音され、ペルシャの商人=駱駝の隊商と想像できる。日本でバザーと称されるのはペルシャ語の市場=Bazaar。パルディスと発音されるParadiseは「周りを土・日干しレンガなどで囲った場所」が楽園という意味に変わった、とのこと。
Khak(土埃)はヒンヅー語のKhakiとなり、英語でカーキ(色)となった。日本の駅で見られるKIOSKはペルシャ語の「宮殿」の意味からトルコ語で「あずまや」となった。Post (郵便)は「プスト」=皮=、手紙を皮でくるんで運んだ由。そもそもイランという言葉からして「アーリア(民族)」を源とし、インド・ヨーロッパ語族のアーリア人文化圏なのだ。同じ中東でもアラブとは異なる。
そして極めつけは「チャランポラン」。偶然かもしれないが、イランでも「チャランデ・ポランデ」といって同じ意味。ビジネスマンたるもの心して、避けねばならない。
とは言うものの、異文化を理解する「許容幅」は必要だ。ある種のチャランポランかもしれない。米オバマ政権の発足で、世界が「共生社会」にChangeすること祈るのみだ。
(社)日本在外企業協会 「グローバル経営」より転載・加筆
■ 関連サイト
・【ムンバイ同時テロ】タージ・マハール・ホテル炎上に思う
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大変興味深い内容に、前のめりで拝読しました。
多くのインド由来(サンスクリット)の言葉が日本語にもある、とインドの友人がよく自慢してます。ベランダもそのようですね。ヒンディー語と日本語も文法的に似ているようです。
また、ゾロアスター教と奈良の謎の石造物の話は聞くだけで熱くなりますね。松本清張「火の路」、是非読んでみようと思います。
好奇心を刺激する情報をどうもありがとうございます。
この地域での文化、歴史に疎い私には大変新鮮な記事でした。
特に日ごろ関心のなかったゾロアスター教の位置づけが何となく分かった気がします。ニーチェのツアラトストラとの関係も面白かった。リヒャルドシュトラウスも作品を作ってますが、かのマーラーも第三番ではこのテーマを織り込んでいるので、マーラー狂の私にとっては魅力です。
この地域の文化歴史に少しでも触れてみたい気がしました。
ペルセポリスからムンバイ、飛鳥につながる壮大なロマンを改めて思い出させてくれました。旧約聖書にも出てくるクロス王、ダリオス王のペルセポリス、ペルシャ詩人のイスファハンなど若い頃訪ねたことがあります。そしてムンバイの鳥葬の塔。ゾロアスターという言葉の響きが神秘ですし、パーシーの営利を追及しないというストイックな規律にも感銘を受けます。ありがとうございました。
写真を見るとちょっと恐怖が蘇りますが、勇気を出してタージに行ってみます!